2008年12月23日火曜日

オヤジの女房はオレの女 21

バイアグラ・レビトラ・シリアス

劇的といってもいい変化は、オヤジがえらく出世したことだ。若い女房を貰って張り切ったのだろうか、それまで万年課長だったオヤジが、次長を飛び越えて一気に部長にまで昇進した。これこそ大変な変化だった。だって風采の上がらない、頭の少々薄くなってきたオレのオヤジが、突然、部長である。
さらにオヤジに関して言えば、出張が格段に増えた。たぶんオヤジの仕事柄なのだろうが、出張そのものは以前から多かった。    
ただ、よくよく気にかけてみると、オヤジは再婚してからというもの、その出張がやたらに多すぎやしないだろうか。いや、絶対にそうだ。前は多い時でも月に一二度、それも長くて五日から一週間ぐらいなものだった。それが今では、一週間や10日はざらで、下手すれば一ヶ月間は、丸々出張で家に居ないことだってあるほどだ。
もっとも本人から言わせれば、部長になれば仕事が増えて当然で、出張だって多くなるのだそうだが・・。
しかし、世間的にみれば、オヤジと響子は新婚の筈で、仕事とはいえ置いてけぼりにされた響子は可哀想である。
響子が、こんなオレを可愛がるのは、オヤジが居ない寂しさをオレで紛らわせているだけかも知れない。
「この店、おいしいね」
と、響子が突然、オレに言う。
「うん」
と、オレも何気なく返事する。
「リョウちゃん、全然、味わってないでしょう。さっきから、外ばっかり見てる」
「美味しいよ」
「そ~お? それで、私の息子は何考えてるの? ママに教えなさいよ」
「オヤジ、久しぶりだね」

マダムとおしゃべり館

「嬉しい?」
「まさか。それこそ、全然だ。あんなの、居なくたっていいや」
「まあ、ひどいこと言うのね」
と言った響子の顔に、オレの気のせいでなければ明るさが戻ってきた。
「あたしさぁ~、若いときから想ってたことがあってね。それはね、いつか結婚して子ども産んで、将来その子と一緒に、お買い物したりレストランでお食事したり、お茶したり出来たらいいなぁ、なんてね」
「取り合えず、叶ったね。その願い」
「そーだね。叶ったわね」
響子がケタケタと明るく笑った。
 レストランを出ると、帰宅するために駅の方へと歩いていった。その途中で響子が、
「あの店、美味しかったわね。覚えといてまた来ましょう。ねっ」
と、オレに言う。
「うん」
と、オレが返事をしながら顔を向けた先に、映画の宣伝ポスターが目に入った。そこは映画館のすぐそばだったのだ。

つづく


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