2008年12月24日水曜日

オヤジの女房はオレの女 22

コロナ犬舎

 オレはまだ子どもの頃、手塚治虫のマンガが大好きな奴だった。その中でも特に熱中したマンガが、時を経てCGを使った実写版となり、それが封切りになっていたのだ。
「あたしも、これ、知ってるわよ」
と、オレがこの映画の話をすると、響子が答えてそう言った。
「ねぇ、見ていこうか。リョウちゃん、見たいでしょう。いいよ。つき合うわよ」
「うん!」
 オレは嬉しくなった。ニッコリとした顔を響子に向けて、大きくコクンと頷いて見せた。すると、響子が手を口に当てて、
「ククッ・・リョウちゃんって、かわいい」
と笑いながら言った。その笑いがなかなか収まらず、少し時間が過ぎてからでさえ、時折オレを見ては、またクスクスと笑っていた。
 館内では、多くの観客がいたにもかかわらず、うまいこと席が二つ三つ空いていて、オレ達はそこに座った。
オレは座席に座ると、手荷物の袋を足の間に置いて映画に見入っていた。そして、しばらくしてから、ふと、オレは右に座った響子の横顔を見た。
 薄暗がりの中で見ても、やっぱり響子は綺麗なオンナだ。数少ないオレの人生経験の中では、これほどの美人はいなかった。その響子が腕を組み、正面のスクリーンに見入っている。
「んっ、何?」
 と、響子がオレの視線に気づいた。

コロナ犬舎

「いやっ、なんでもないよ」
「リョウちゃん、ノド乾かない」
「なんか飲む?」
「うん!」
と言いながら、響子がオレのマネをして大きく頷き、声を出さずに笑っていた。
 オレは身を屈めながら立ち上がり、館内の売店へと行った。
 それから三十分ぐらい過ぎた頃、響子のカラダがオレに寄りかかり、次いで頭がオレの肩にもたれ掛かってきた。えっ?と思い、まさか?とも思って見ると、響子は寝息こそ立ててはいないが、しっかり寝ていた。
 意識してオレの肩にもたれ掛かったわけではなかったのが、少々残念だが、まあ、それはやっぱりないだろう。
 それでもオレとしては、嬉しくて、嬉しくて、オレは緊張しながらも、響子を起こさないようにじっとしていることにした。
 いつの間にか組んだ腕がほぐれて、響子の白くて綺麗な左手が、掌を上にして膝に乗っている。オレはしばらくじっと、その手を見つめていた。
 オレはおっかなびっくり、自分の掌を響子の掌に重ねて、そっとその手を握ってみた。そしてオレは、ゆっくりとその手をオレの膝の上へと持ってきた。
肩にもたれ掛かった頭が動いて、響子の目が開いた。オレを見ると二コリと笑って、握ったオレの手を軽く握り返してきた。
響子がゆっくりと、自分の手を引き戻そうとする。オレはそうさせないために、ギュッとその手を握った。響子が困ったような顔をオレに向けた。でも、握った手はそのままにしてくれた。

つづく


コロナ犬舎

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